2022年3月18日金曜日

私がブラックドレスを着る日

その日は、食べて飲んで笑って泣いて、人生の生と死を日常と捉えることができた一日でした。だれにでもいつか訪れるであろう、悲しみや喜びの時をその人らしく過ごしてほしいと願うのです。FORのブラックドレスには、二人の女性が描かれています。写真と共にご覧いただけたら幸いです。


「ママ、いい式だったね」
祖父の葬儀があり、たくさんの人が集まった。知人達が様々なエピソードを話し、泣き、笑い、昔話しに花が咲いていた。集まってくれた人たちは、私にはどんな関係だかわからない。みんな年老いた大人なのに、なんだか子どもに返ったように話しをしていた。

悲しくてもお腹は空く。母の淹れたコーヒーとサンドイッチをゆっくりといただく。「美味しい」いつもの味にホッとする。しばらくすると、母が写真を持ち出してきた。母の小さな時の写真。きっと祖父が撮ったものだろう。小さな母は微笑んでいる。そのうちリングを指差し、これは誰から貰った指輪、このブレスレットは誰からと、一つずつ教えてくれる。私にとっては、古めかしいシルバージェリーに見える。けれど、母の手を飾るリングには、私には見えない、何かが宿っている気がした。

私にもそういうものが一つずつ増えてゆく。見つめる度にそのまま進めという指輪や、不安なった時に触る文字盤の大きな腕時計。父が亡くなった時にあつらえたブラックドレス。どれも、私に馴染み背中を押してくれるもの。

時とともに変わり続けて愛でられ、私の手元に残るものたち。

写真:東野翠れん

la fleur 岡野奈尾美
FOR flowers of romance 岡野隆司